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代表からのご挨拶

代表からのご挨拶

ESG情報開示研究会への
期待
代表理事 北川哲雄
青山学院大学名誉教授・東京都立大学特任教授

「ESG情報開示研究会」の代表理事の北川でございます。就任にあたって当研究会への抱負を申し上げたいと思います。

私は長年、企業のESG情報開示の分析を研究対象としております。日本企業のESG情報開示は欧米企業に比べて劣っているという指摘があります。しかし10年前に比べてみると随分と差が縮まっているのではないのでしょうか。同業の定評のある海外他社に比べて凌駕している企業も散見されるようになりました。

しかし、欧米の識者の中には日本企業のESG情報開示について厳しい評価をする人が依然います。この認識ギャップは埋めなければなりません。そのためにどうしたらよいか。5点ほど指摘したいと思います。

第1点は日本企業にありがちなのはベンチマークする企業を国内にのみ求めている傾向があるという問題です。海外企業に目をもっと向けるべきかと思います。よく「開示のガラパゴス化」を懸念する方がいますが、私は、それは目が海外企業にも開かれていないからだと思います。

第2は様々あるESG開示フレームワーク(SASB,IIRC,GRI,TCFD等々)やESG評価機関の評価姿勢につき受動的に時差をもって理解して満足している点です。先ずはそれらの内容・意義を蹲踞の姿勢で徹底的に学ぶことが必要だと思います。そのうえで開示フレームワークに振り回されるのではなく冷静に眺め、時には批判するレベルまで達するべきです。

代表からのご挨拶

第3は、ESG情報開示の姿勢として、日本企業は消極的であるとか、ストーリー性がないと言われますが、そういった批判に応え克服することが必要だと思います。日本企業には「陰徳陽報」という考えが企業理念の中にあると言われていますが、私は「陰徳」を格調高く「文章化」しアッピールする必要性があると思っています。これによって投資家・ステークホルダーからの高評価(陽報)が得られます。ドナルド・リチー氏(映画評論家)は小津安二郎の作品を「日本的なるものであるとされているが、それ故にユニバーサル」と評しましたが、肝に銘じるべき言葉ではないでしょうか。

第4は没個性的だということです。堅苦しさを感じると評する人もいます。私はESG情報開示といったとき、少なくとも企業自体の長期持続可能性をイノベーション・経済的利益との関係でヒッチコックの映画のように観客(=読者)を楽しませながら表現するアニュアルリポート(統合報告)と隙のない網羅性(Fact Finding)の体系をもって厳密に示すサステナビリティ報告書の2本立てが必要であると述べてきましたが、前者については魅力ある開示がとりわけ少ないなと感じています。

第5はESG情報開示に携わる各企業のスタッフの人々が「楽しく、生き生き」と仕事をする環境を整えるべきだということです。10年前ほど前、北欧のある先進的情報開示で有名な企業に伺ったのですが、広々としたオープンスペースで和気あいあいと会議をしている場に遭遇しました。本来こんなに創造的でかつ刺激的な職務はないはずなのです。

以上から、私が考える当研究会の最初の成果(outcome)は参画する1社1社が自分を見失わず、懸命に誠実に素直にサステナビリティに関わる活動を描写することによりそれぞれの分野(セクター)において「世界一」となる開示を行うようになることです。最終的には主要なビジネスセクターにおける世界最先端の開示とはこのようなものであると示すことができるでしょう。

そして本研究会には企業側でなく、開示された情報の利用者である投資家・ステークホルダーも参加します。グローバルに活躍するコンサルティング企業も参画します。相互に率直に議論しあうことにより、より高次元の情報開示が模索されることになるでしょう。

ここにおいて日本的なるものはユニバーサルなものにアウフヘーベン(止揚)されるのです。